成功事例紹介公設試とつながって、成果を出した事例を紹介。

ふたつの異なる測定器を使い
バルク抵抗と界面抵抗の分離を可能に!

成果のポイント

実用化が期待される全固体電池用固体電解質向けのインピーダンス測定システムを開発。課題だった電解質のイオンの移動抵抗を、10mHz~100MHzという広い周波数帯域で測定できるようにした。

製品開発

2021.04.01

活用サービス
技術相談、試験機器利用、シーズ・ノウハウ提供、共同研究、レンタルラボ、 特許共同出願
社名
株式会社クオルテック
公設試名
滋賀県工業技術総合センター
研究者氏名
電子システム係 主任主査 山本 典央 氏

未来を変える全固体電池
その固体電解質の良し悪しを測るシステム。

現行のリチウムイオン電池を超える次世代電池として、「全固体電池」という言葉を最近よく耳にする。リチウム電池はノートPCや携帯電話などに使用されているが、今後はさらに大型電池の需要が見込まれ、特に車載用として全固体電池が熱望されている。リチウム電池は、正極(+)、負極(−)、電解質の3つから構成されているが、電解質を通ってリチウムイオンが正極と負極の間を行き来することにより、充電と放電の反応が起きる。正極と負極は固体だが、電解質には可燃性の液体が使用されているため液漏れや発火の危険性があり、重大な事故につながることもある。
「車載に求められる性能としては、安全性・信頼性・高電圧・高温対応などがあります。もちろん燃えないことが必須です。そのためには、電解質を燃えない固体とする必要があります。このような状況下で、各社しのぎを削って全固体電池の開発に取り組んでいます」。そう語る山本典央は、企業との共同研究でこの固体電解質の良し悪しを測る「インピーダンス測定システム」を開発した。
固体電解質というのは微粒子を固めて作られる。拡大してみると粒を焼き固めているだけなので、充放電時リチウムイオンが粒の中を動くときと、粒と粒の境界面を動くときの、2種類の動き方がある。ここで重要なのは、それぞれ動き方が違うということ。「このどちらの動きの抵抗が大きいのかを見極めないと、作った固体電解質の何を改良すべきか判断がつきません。中を動くときの抵抗が小さくても、境界面の抵抗が大きいとダメなわけです。私たちの測定システムは、この2種類の抵抗を分けて測るためのシステムなんです」

従来の電解液を使用した電池と全固体電池の違い

「バルク抵抗」と「界面抵抗」
ふたつを分けて測定するためには?

それぞれの抵抗はもちろん小さい方が特性がいい。固体電解質を作るときには粒をプレスし、また、場合によっては焼き固めて緻密なものにするが、これを拡大してみると粒の塊。インピーダンス測定をすると粒の中を通るときの「バルク抵抗」と境界面を通るときの「界面抵抗」があるのが分かる。「ご飯粒に例えますと、炊いたご飯を食べて美味しくなかったとします。そのときに味を改善するなら、米の品種を変えたり、水の量や温度などの炊き方の条件を変えますよね。固体電解質も同じで、粒をプレスして焼き固めて、その出来具合が悪かったら材料そのもの、あるいはプレスや焼結方法を変えていくんです」。つまりバルク抵抗と界面抵抗に分けることができれば、作ったものに対して何を改良すればいいかが分かるわけだ。このバルク抵抗を測るためには10MHz以上が必要である。一方、界面抵抗を測るためには1Hzよりも低い周波数まで測る必要がある。したがって、広い周波数帯域を測らなければならないが、1台で測定できる測定器はなかった。そのような状況を克服するために開発した「固体電解質向けインピーダンス測定システム」では、10mHz~10MHzを測る測定器と100Hz~100MHzを測れる測定器を組み合わせている。「通常だと1台ずつ接続して測るわけですが、このシステムでは制御ソフトウエアから開発し、低い周波数から高い周波数まで自動的に切り替えて測れるように、切替装置も作りました。世の中になかったので……。研究者の間でもこのシステムはマニアックすぎて理解できる人は少ないんです」と笑う。

偶然というか運命的というべきか、
担当後すぐ、自身の知見を活かせる研究に出会う。

共同で研究開発したのは大阪・堺市にある株式会社クオルテック。同社は依頼分析を中心とした企業で、社内には新しい分析法や測定法を研究開発する部門もある。担当者が固体電解質に関しての初歩的な測定治具を自作しており、この測定治具を使って測定をしたいと同センターを訪れた。使用したのはソーラトロン社のインピーダンス・アナライザ 1260A。この測定器は電池分野ではデファクト・スタンダート的存在。こちらの測定器の担当になったばかりの山本、何度目かの測定時に何を測っているのか尋ねた。その時はじめて固体電解質を測っていると知ったという。
必要な周波数について聞くと、「今は1MHzだが、できれば10MHz欲しい」という返答。「私からすると電池分野の測定にそんな高い周波数が必要なのか、がぜん興味が湧いたんです」。なぜなら山本はもともと高周波計測が専門。「それなら測定治具内部の配線を変えてはどうか?」と提案し、その場で絵を描いて説明した。そのとおりにすると今まで苦労していた高周波数が簡単に測れた。これをきっかけに共同研究がスタートする。センター内の技術開発室(レンタルラボ)を利用してクオルテックの滋賀テクニカルラボを開設し、共同研究は進められた。
そのタイミングで平成26年度NEDO委託事業「新エネルギーベンチャー技術革新事業/新エネルギーベンチャー技術革新事業(燃料電池・蓄電池)/全固体電池・燃料電池向け固体電解質の交流インピーダンス測定治具・システムの開発」に採択される。この委託事業で購入したのがキーサイト・テクノロジー社のインピーダンス・アナライザ E4990A。山本の専門分野である高周波計測ではよく使用される機器だが、固体電解質の研究をする電池分野の人たちにとってはほとんど知られていない。

測定器につなぐ測定治具
その性能を検証するデバイスも開発。

システムが完成し、クオルテックではすでに大学や研究施設への販売もスタートした。「この測定治具はヒーターを内蔵しており、300℃まで温度を上げられるので、高温度で測定したいという要望にも応えられます。電気炉に入れる必要がないので長い測定ケーブルは不要となり高周波数でも精度が落ちません」。さらに測定器や測定治具を含めた測定系全体の性能を検証するために、基準となるデバイスも開発。固体電解質の電気特性を模擬した電子回路を内蔵している。これを測定治具にはめて測ると「正しくはこう出ますよ」というのが分かる。「直径10mm、厚さ3mmの小さなものですが、使用する測定器の性能を検証したいときやデイリーチェックにも使えます」。今後は販路拡大と新たに寄せられる要望に応えていくという。公設試を使うポイントとして「無理かなと思わずに何でも相談してみること。社外秘もあるのでこちらからは根掘り葉掘り聞くと失礼。だから困りごとを話せる範囲で言ってもらえたら。そのためには職員が話しづらい空気をつくってはダメだ」とも。互いにオープンマインドで接すれば、意外と話がトントン拍子で進むこともある。
山本はもともとEMCという電磁波計測の分野で電子機器から放出される電磁ノイズの測定が専門。「E4990Aは電池分野の人には全然なじみのない測定器。逆もしかり。お互いの研究領域が違うので知らないし、E4990Aと1260Aは測定原理がまったく違うから、このふたつを一緒にしようという発想にそもそもならない」。逆にいえば山本が担当したからこそ生まれたシステムといえる。「それはクオルテックさんにも言われます。よく現状を変えるにはよそ者、若者、馬鹿者といいますが、今回はその好例。私が電池分野ではなく“よそ者”だったのが功を奏しました。どんな出会いがあるかわからないし、担当者が専門外でもほかにつなげることもできるので、やはり気軽に相談してみることですね」

開発した測定系検証用デバイス「標準RC回路」

研究者紹介

公設試名
滋賀県工業技術総合センター
肩書き
電子システム係 主任主査
研究者名
山本 典央 氏
専門分野
EMC・電磁環境適合性、高周波計測、電気化学インピーダンス測定
会社概要
自動車やスマートフォン、家電製品をはじめ世の中にある製品を対象に、製造業の生命線「品質の向上」に関わるサポートをおこなう。 あらゆる製品の不良解析から分析、再現実験、信頼性試験、研究開発、品質コンサルティングまで品質に関するトータルソリューションサービスを自社一貫でおこなっている。
企業情報
株式会社クオルテック
所在地
大阪府堺市堺区三宝町4-231-1
電話番号
072-226-7175
URL
http://www.qualtec.co.jp/