成功事例紹介公設試とつながって、成果を出した事例を紹介。

LEDが安全と安心に寄与する
製品づくりをサポート。

成果のポイント

交通関連機器のLED化は、長寿命、省エネルギー、視認性向上などメリットが大きい。全国に先駆け「歩行者用信号機完全LED化」を実現した徳島で、研究のコアを担う徳島県立工業技術センターでは、ユニバーサルデザインを考慮した照光式歩行者用押ボタン箱や環境に配慮した横断歩道灯の開発に成功し、LEDを使用した交通関連機器の高性能化を進めた。

製品開発

2022.03.23

活用サービス
技術相談、試作開発
社名
日本フネン株式会社
公設試名
徳島県立工業技術センター
研究者氏名
電子・情報技術担当 主任 中村 怜

LED王国・徳島の要となる
「LEDサポートセンター」の存在。

1993年、徳島県の企業が「20世紀中の開発は困難」と言われていた青色LEDを世界ではじめて製品化した。そして2005年12月には、「LEDと言えば徳島!」を掲げ、21世紀の光源であるLEDを利用する光(照明)産業の集積を目指す「LEDバレイ構想」を策定。当時は10社ほどであったLED関連企業は、2010年には150社を超えた。そこには照明器具、サイン・ディスプレイ、素材・部品デバイスのほか、植物工場などの新用途、画像処理・計測装置、イルミネーションなど、幅広いメーカーが含まれている。
県内でも積極的にLED技術を活用し、2013年には全国初の「歩行者用信号機完全LED化」を実現。県道の道路照明灯やトンネル照明のLED化も進めている。「障害物表示灯用LED電球」などの開発にも取り組み、徳島ならではの都市づくりを推進中だ。また2019年には、次世代LEDによる新たな光関連産業の創出と集積機能の飛躍的向上を目的とした「次世代LEDバレイ構想」へと移行した。
2013年に徳島県立工業技術センターに開設された「LEDサポートセンター」には、国内最高レベルの性能評価体制があり、技術相談から光学・安全・環境の性能評価をワンストップで実施。公設試験研究機関では初となる国際規格ISO17025に適合した試験所でもあり、国際競争力の向上を支援する。こちらで測光をはじめ光全般の研究をしている中村怜が、LEDバレイ構想参入企業の日本フネン株式会社と取り組んだのが「照光式歩行者用押ボタン箱」と「横断歩道灯」の開発だ。

高齢者や障がい者の利便性を高める
ユニバーサルデザインの押しボタン。

地域活力の向上や持続的発展を目的とする、国の「地方大学・地域産業創生交付金」の事業採択を受け、今回の研究開発はスタートした。製品依頼元はすべて徳島県警。同県警は1994年にLEDを使用した信号機を日本ではじめて導入し、その後全国に広がった。今回も全国に先駆けての開発となる。歩行者用押ボタンといえば通常は赤い押しボタンだが、徳島県ではこれらを「ユニバーサルデザインの押しボタンに変更する」という考え方のもと進められた。ボタン部分が半透明となっており、内部のLEDがオレンジ色に点灯する。夕暮れ時や夜間でも見やすいようにし、高齢者や障がい者の利便性を高めるのが目的だ。量産にあたってボタンを選定し、それがさまざまな環境で耐えうるかを検証する。まずは既存品と同じメーカーの照光ボタンを採用することで取付部の加工を不要とし、コストを下げて組み立ても容易にした。次にこの製品の信頼性を検証。ボタン部の耐候性の調査では、太陽光・温度・湿度など屋内外の条件を人工的に再現し、製品や材料の劣化を促進させるサンシャインウェザーメーターによる試験を実施。「実際の製品は雨に打たれ、晴れの日は紫外線にさらされ、湿度が上がったり乾燥したりします。ですので、1~3年ほど屋外設置した状態を再現し、ボタン部分の変色を調べました」。そう中村は振り返る。試験後でもひび割れなどの状態には至らず、性能にも問題がないことを確認した。
次に強度の調査。従来品の故障の多くは傘の先端で突かれることが原因だという。そこで耐候性試験後のボタン部分に対して、強度試験機で曲げ試験を行ったところ、1,200Nの荷重を与えても、変形は見られるが亀裂が入ることはなかった。押しボタン箱の開発についてはIP試験治具を使い、10L/分の水量を5分間以上かけ続けて水に対する耐水性を試験した。
こういった公共の場に設置される機器には、予期せぬ故障も起こる。過去には押しボタンを引きちぎられたこともあり、その場合を想定した試験も実施。スイッチ部をトルクレンチにより試験し、その値をもとに、スイッチ内部に螺旋状のコイルバネとアルミパイプを挿入。これにより現状性能も崩さずに約10倍以上の強度へ改良された。現在、障がい者や高齢者の利用が多い、県立障がい者プラザ前の県道横断歩道などに3基が設置されている。

信号機のない横断歩道を照らすことで
交通事故を減らし、歩行者を守る。

もうひとつは横断歩道灯。これは現在、徳島県のみが採用されている機器。新しい道路がつくられると必ず、そこには横断歩道ができ信号機が設置される。いっぽうで交通量の減った古い道路で信号機を撤去した後、横断歩道のみを照らす照明がこの横断歩道灯だ。信号がなくとも横断歩道が灯りで浮かび上がっていると、ドライバーは減速もしくは人がいることに気がつくという。
開発にあたって「横断者を視認しやすい色調」「運転者が眩しくない配光」「薄暮時にも対応した明るさ」が配慮され、白色系のLEDを採用。横断歩道だけを照らすように工業技術センターで配光試験を行った。それにより、道路標識が見えなくなったり、周辺の農作物の発育に影響することもないという。装置は縦14cm×横8cm×奥行き5cmと小さく、横断歩道の横にある電柱などに設置できる。基本的に1カ所につき2基並べて設置し、夜間は1基、周囲が薄暗く光が目立ちにくい薄暮時の時間帯に2基点灯してその光量を調節する。
横断歩道には光を散乱させる成分が含まれており、照射することで光が反射して散らばる。それによって人が浮かび上がるように見えるという。こちらに対しては−20℃~60℃の範囲で温度試験を実施し、問題なく動作することを確認した。2019年7月に試作品が完成し、翌年8月から設置を開始。これまで事故が頻発した場所を中心に、歩行者の有無にかかわらず夜間は常時点灯。設置後1年間、これらの場所で横断歩行者の事故は起きていない。

企業のものづくりを
新しいステージへと後押しする提案。

共同開発した日本フネンは、新築分譲マンションの玄関ドアやホテルの防火扉で国内シェアのトップを誇る企業。LEDバレイ構想に参画し、新たな世界へ一歩を踏み出した。中村とは以前より歩行者信号機用LED電球などの開発をおこなってきた。はじまりは歩行者信号機用白熱電球のLED化に関して依頼を受けた中村が試作し、それが好評であったため製品化することであった。そこで「新しいことをしませんか」と日本フネンに声がけしたという。工業技術センターから企業への逆提案が成功した珍しい例だ。
同社としてはこれまでは屋内設置の製品を主に製造していたが、屋外だとさまざまな天候条件に耐えうるものでなければならない。製品の測定・検査方法は中村が考えた。企業としても交通機関という高い安全性能が求められる世界への挑戦において、光の測定を専門とする中村の存在は心強かったはずだ。
40℃近い真夏、日光に照射されて製品が70℃近くなった場合を想定するなど、それぞれの試験の条件を設定。信号に用いられる電球であるため、一般市販のLED電球に比べ高温に耐え、滅灯しにくい構造に。さらに同社の独自技術により、構造や反射板を活かし色合いや明るさなどのムラがなく、規格を満足する仕様となった。冒頭に書いた通り、「次世代LEDバレイ構想」へ踏み出した徳島県にとって、「LEDサポートセンター」を擁する工業技術センターの果たす役割は大きい。今後もさまざまな「全国初」のLED製品が生まれていくことだろう。

研究者紹介

公設試名
徳島県立工業技術センター
肩書き
電子・情報技術担当 主任
研究者名
中村 怜
専門分野
光計測
会社概要
創造、革新、挑戦をモットーにオンリーワン企業をめざす。 1972年創業。新築分譲マンションの玄関ドア市場で国内トップシェアを誇り、玄関ドアを中心とした建築部材を製造・販売する。社名のフネンとは「不燃」を意味し、と建築物に対して、「不燃」「防火」「耐火」性能など機能性の高い素材での建築資材を開発してきた。つねに最先端の技術を志向する遺伝子を持ち、21世紀の住環境の進化、そしてエコロジカルな循環型社会づくりに 貢献できるよう、持てる技術と叡智を結集し、時代に先駆けた提案をおこなっている。
企業情報
日本フネン株式会社
所在地
徳島県吉野川市川島町三ツ島新田179-1
電話番号
0883-25-2445
URL
https://www.nihonfunen.co.jp/