成功事例紹介公設試とつながって、成果を出した事例を紹介。

着色なしでステンレスをカラーに!
数nm単位で不動態皮膜を精密にコントロール。

成果のポイント

従来まで品質の安定しなかったステンレス発色に対して、研究開発を通じて工業製品として生産するためのプロセスを構築。これによりステンレスの用途を拡大した。また色という曖昧になりがちな指標に対しても数値化を進め、客観性を保った検査評価技術を確立した。

製品開発

2021.04.01

社名
株式会社アサヒメッキ
公設試名
鳥取県産業技術センター
研究者氏名
機械素材研究所 副所長 玉井 博康氏

ステンレスが錆びない理由は
「不動態皮膜」にある。

鉄にクロム・ニッケルなどの元素を加えた合金鋼ステンレスは、錆びにくい素材としてさまざまシーンで使われている。これはステンレスの表面を覆っている酸化皮膜のおかげだという。「この皮膜は一般的に不動態皮膜と呼ばれ、ステンレスの成分が大気中の酸素に酸化されることにより生成されます。この不動態皮膜は1μの100分の1以下と極めて薄いものです」。そう語るのは玉井博康。だが表面が汚れていると、そこだけうまく膜が形成されない。それが「ステンレスなのに錆びる」原因となる。また製造過程において削り出しなどのさまざま加工を受けるステンレスゆえに、膜厚が安定しない場合があった。
それらをうまく取り除くことができれば、均一できれいな膜が形成できるのではないか。玉井が得意とする表面改質は、こういった素材の表面の性能を向上させることだ。「ステンレスをきちんと表面処理するためには電気で磨きます。液の中に漬けて電気を与えて凸部を溶かしてしまう。これを電解研磨といいます」。金属の原子を陽極(+極)として帯電させると反発力で溶けはじめ、凸凹はなだらかになる。その状態にしてから酸化溶液に漬け、あらためて膜を形成させるのだ。そうすることで広く均一にムラのない表面に仕上がるという。グラインダ-やサンドペ-パ-、バフといった機械的な研磨が、砥石と圧力により凹凸を切削・変形・摩耗により除去するのに対し、電解研磨は凸部の優先的な溶解により平滑化・光沢化するもの。表面は焼けや残留物による汚れなどを残さない、非常にクリ-ンな研磨方法なのだ。

不動態皮膜をコントロールして
ステンレス自体を発色させる新技術を。

今回ステンレス発色処理技術の開発依頼したのは、株式会社アサヒメッキ。同センターとは先々代の社長からかれこれ40年のつきあいがあり、さまざまな研究開発を共同で進めてきた。「同社では電解研磨の装置を使った新規事業の創出を考えておられました。同時に塗装ではなく金属に色をつけたいという思いもあって。このふたつを結びつけたらどうなるか。それが発端でした」
これまでステンレス表面加工技術では電解研磨が活用され、耐食性や光沢感をより高める処理がおこなわれてきた。この光沢感から「ステンレスといえば白銀色」というイメージが定着している。シャープさやソリッドな印象を与える反面、無機質で冷たいというイメージを持たれがちだった。製品全体のパーツとしてみると周囲の色調と合わないなど、デザイン性が乏しく感じられる場合もあった。
いっぽうで市場にはステンレス材を塗料などで着色したものや上層に塗布しただけの商品が多く見られる。いずれもデザイン性と耐久性それぞれに優れた発色が難しく、アサヒメッキでは「この条件を満たせば、新たな市場ニーズが開拓できる」と考えていた。そのため自社の電解研磨技術を活用して耐食性能を強化しつつ、塗装に変わるステンレスの発色化技術として化学発色皮膜形成技術の確立を強く望んでいた。
ステンレスの発色加工とは、酸化皮膜の厚さを変化させることで干渉色をつくる技術。酸化溶液に漬ければ膜は厚くなる。この技術は古くからあったものだが、扱える大きさに限りがあって10cm程度が限界。これ以上大きくなるとたちどころに厚さにムラができてしまう。「膜の厚さをコントロールすることで、光を当てた時の見え方が違ってくる。虹と同じ原理で、定まった厚さで特有の色が出る。ただしそれを実現するには、数nmのオーダーで厚さを制御する必要がありました」

化学発色処理にみずから規格を
品質や試験方法でJIS規格制定。

「数nm単位で不動態皮膜を精密にコントロールする」、この難題に挑んだ玉井とアサヒメッキ。平成27年度と平成30年度には新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の中堅・中小企業への橋渡し研究開発促進事業に採択され、鳥取県産業技術センターと産業技術総合研究所に橋渡し機関として研究に参画。色調均一化を実現するステンレス鋼発色の実用化に成功し、国内特許と国際特許を取得した。
ステンレスの表面の酸化皮膜に光が入ると、一部の光は酸化皮膜の表面で反射し、ほかの光は酸化皮膜の表面を通り抜けステンレスの表面で反射する。このふたつの光の通り道の遅い波長の違いにより、干渉色が表れる。干渉色のカラーバリエーションは、酸化皮膜の厚さを変えることによりつくりだされる。また従来の技術ではできなかった、色ムラやロット間の色のバラツキの改善に成功したことによって、色調・デザイン性が向上。経年使用による錆などの劣化も減少する。それ以外にも塗装にはないメリットも。塗装の場合、人の技量に委ねられる部分が多い。だがこの処理方法は溶液につけるだけ。温度・時間・hp・導電率などの指標値をコントロールすればいいだけなので、自動化、量産化に向いており、しいてはコストカットにもつながる。
さらに本技術を国内標準化するために、品質規格も提案している。「ステンレス鋼の化学発色処理は古くからあった技術ですが、その品質や試験方法は統一されておらず、そもそもどのように品質を定めたかという規格すらなかったんです」。そこで経済産業省の新市場創造型標準化制度を活用し、「色」の専門家も加えた検討をおこなった。色座標をもとに色差が3.0以下で色ムラがないものと定めるなど、ステンレスの色の評価方法にも取り組み、2020年2月には、日本産業規格(JIS)に規格制定された(JISG4331:2020)。

新技術によって市場開拓。
建築や医療へ、大きく広がる可能性。

このステンレス発色技術の確立によって多様な発色と色の均一性が実現しただけではない。最先端の工業製品なのに、伝統工芸品のような親しみや温かさを感じさせることもできる。またデザインのみならず、製品の識別やサイズ別の管理に役立ち、作業ミスを防ぐことにも有効な技術となった。従来のステンレスを塗装した製品にくらべ、錆びや衝撃に強く、表面の光沢の有無や指紋がつかないといった特性から、建築はもちろん食用にも安全に使える。アサヒメッキでは発色ステンレス鋼の用途拡大に応えるため、大型製品や大量ロットに対応した新工場を2019年7月に増設。新しいジャンルへの挑戦もはじめている。
アサヒメッキと同センターは長いつきあいがあり、日頃から品質管理や開発技術の課題について相談してきた。企業が公設試を使うメリットを玉井はこう語る。「会社が抱える課題などをまず相談して欲しいですね。ざっくばらんな相談から入ると、いろんな方向に発展できると思います。今流行のオープンイノベーションじゃないですが、いろんな人に聞いてみるというのが大切。関西広域連合の関わっているところであれば、リレーションもできますし。それをうまく利用して欲しいですね。私たち自身もこれからはもっと仕掛けが重要だと考えており、そのためには、なにより“動く”ことを心がけています」

研究者紹介

公設試名
地方独立行政法人鳥取県産業技術センター
肩書き
機械素材研究所 副所長
研究者名
玉井 博康氏
専門分野
資源工学、無機材化学
会社概要
亜鉛メッキ、ステンレス電解研磨、アルマイトの処理加工を得意とする表面処理メーカー。創業から50年越える経験と技術力で培ってきたメッキ技術はもとより、表面処理の分野で独自技術を開発展開している。2016年に表面処理技術である「アルミニウム合金の表面処理方法」の特許を取得し、2018年に第7回ものづくり日本大賞、中国経済産業局長賞を受賞。
企業情報
株式会社アサヒメッキ
所在地
鳥取県 鳥取市 南栄町1
電話番号
0857-53-4561
URL
https://asahimekki.jp/