成功事例紹介公設試とつながって、成果を出した事例を紹介。

独自開発したシーズを
企業へライセンスアウト。

成果のポイント

和歌山県内で、増殖速度が速く、高温ストレスに強いユーグレナ「Kishu株」を発見して特許取得。広報活動を積極的におこない、企業とライセンス契約をかわした。

製品開発

2021.04.01

活用サービス
技術相談、共同開発
社名
株式会社ビオラボ
公設試名
和歌山県工業技術センター
研究者氏名
食品開発部 加工技術担当 主任研究員 中村 允 氏

健康食品の原料としてだけでなく
バイオマスとしても期待されるユーグレナ。

最近、ユーグレナの名前で売られる健康食品をよく目にする。これは和名「ミドリムシ」と呼ばれる微細藻類の一種で、光合成をする植物の特性と運動をする動物の特性の両方を持つ微生物。粉末化すると、見た目はお茶の粉のような緑色をしている。2005年に東京大学発のベンチャー企業が、世界で初めて「ミドリムシの食用屋外大量増殖法」を確立し、こちらを原料とする健康食品などで認知度を広めてきた。ユーグレナは多糖類であるパラミロンや油脂(ワックスエステル)を体内で生産するため、栄養価に優れた健康食品原料として流通しているが、一方で新たなバイオマスとしても期待されている。ジェット燃料やバイオプラスチック、医療材料など多数の用途展開を目指し、大学や研究機関、企業で研究開発が進められる注目の素材なのだ。だが同時に供給先が限定されるため、需用とのバランスが追いつかず入手困難な状況でもあった。「食品としてのユーグレナは、たとえば“ブルーベリーが眼に効く”というように、どこかの器官に直接影響を与えるものではありません。アミノ酸の含有量が豊富なため、虚弱体質や高齢者のフレイル状態に対して栄養補給として用いられることが多いんです」。そう語るのは和歌山県工業技術センターの中村允。県内で新規株となる「ユーグレナKishu株」を発見し、供給不足の市場に改革をもたらした人物だ。

増殖速度が速く、高温ストレス耐性に優れた
新規株「Kishu株」を県内で発見。

ことの発端は、中村が知り合いから「一緒にユーグレナを研究しよう」と持ちかけられたこと。「ユーグレナは殻の中にパラミロンという白い粉を蓄えています。これはβ1-3グルカンという多糖類で、こちらをバイオプラスチックの原料にする研究を手伝っていました。ただ原料調達からすべてをセンターで行うのは難しくて」。先ほど書いたように原料のユーグレナは、世の中に多く出回っているわけではない。「いくら出口の研究を進めても、入り口の原料確保でつまずいてしまう。そこで“安く大量にユーグレナを培養する研究”へと方向転換したんです」。この部分をセンターが担当すれば、研究開発の流れもスムーズになると考えた。さらに「どうすれば安くつくれるか」という課題もある。培養するためには培養液が必要だが、これが結構コストがかかるのだ。そこで培養液の栄養分を食品残渣や廃液を使用すればコストが下げられると考え、和歌山県内の食品加工メーカから譲り受けた未利用資源を活用することに。さらにいえば研究に使うユーグレナは生産性のいい、早く成長する株が欲しい。じつはユーグレナが増殖する速度はまちまちで、それ以外にも過酷な環境にも強いなど株ごとに特性があるという。「そこで県内各地の川や池をまわり、そんな特性を持つ株を探すプロジェクトを始動しました」それが2014年頃の話。地道な探索を続けること2年、ついに求めていた新株が発見される。増殖速度が速く、細胞分裂にかかる時間が既存株の1.3倍。また35℃では増殖性が急激に低下する既存株に対し、新株は 35℃でも優れた増殖速度を示す。つまり培養できる温度領域が高温領域に広く、夏場の温度管理や高温地域での培養にもメリットがある。想像を超える優れた増殖性を持つ新株と、未利用資源による培養液があれば、当初の目的であった「ユーグレナを安く大量生産」が可能となる。

公設試にとって大切なのは
実用化ステップへ円滑につなげる「技術移転」。

その後、「ユーグレナKishu株」として特許を取得。「プレス発表や特許庁が主催するマッチングの展示会などに出展して、これを原料として使用してもらえる企業を探しました」。そうするうちに微生物や天然の抽出物、機能性食品の原料の研究・製造を行っている株式会社ビオラボから、このユーグレナKishu株を食品原料として規格化および製造したいとの申し出があった。「県内には微生物を培養できる設備や技術を備えた企業は少なく、なかなか技術移転できないなと思っていたところビオラボの担当者から問い合わせがありました。先方はすぐ製造に取りかかりたいという話だったので、ライセンスなど契約を交わし、スピーディーに話は進んだんです」。同社ではさまざまな機能性成分を使用するにあたり、ひとつひとつを大学の先生が監修し、エビデンスデータを持つものだけを扱う方針だが、そこにも合致した。特許以外に培養方法のノウハウもライセンス契約を交わし、2020年からはビオラボのグループ会社である株式会社GEウェルネスによって食品原料として販売されている。
シーズを事前に持ち、それをライセンスアウトする。今回のケースは研究機関として理想的な展開だ。とはいえ苦労もあった。菌株の発見から培養まで研究自体はスムーズに進んだが、それを企業に技術移転するところが難しかったという。「菌株を渡してもすぐに生産できるわけではなく、設備の準備や実機でどれだけつくれるかといったデータも必要になります。自分たちの仕事はこの技術移転がもっとも重要。今回のようにシーズ発で自分たちの研究からのスタートでも、イチからの共同研究であっても、最終的には企業に技術移転してうまく使ってもらえなかったら、役割を果たしたことにはなりませんから」

テーマごとの公設試のつながりが
新たなシーズを生み出す。

同センターでは、「企業にとって、満足度の高い十分な相談対応ができるよう、新しいユニークな技術を多数確立することで、企業の一歩先を進む研究機関になる」ことを志している。また先行型技術支援を重視し、基本特許の取得を目指して研究活動に従事している。この事例はまさにその好例といえよう。「今回はもともとあった研究成果をライセンスしたものですが、私たちの仕事はもっと早い段階で共同研究することが多いです」
中村がメインで関わっているのは食品加工。商品開発のサポートに関わることが多い。梅、ミカン、桃、キウイ、柿、和歌山にはさまざまフルーツをはじめ食品原料となるものが多くあり、それらを使って新しい商品をつくりたいというニーズが高い。「公設試間での連携も結構あるんです。私の部署は食品加工と微生物を二本柱にしており、微生物では日本酒の研究も手がけているんです。ここでは近畿・北陸の公設試で連携し、日本酒の共同研究会も開催しています。また産業技術総合研究所も一緒になったプロジェクトもあるので、日本酒に関しては公設試間のネットワークができている気がします」。ユーグレナに関して言えば現在、数件の県内企業と共同で商品化に向けて動いている。「もともと和歌山県の企業に活用して欲しいという想いがあったので、ビオラボさんにも培養したユーグレナを県内企業に卸してもらえるよう協力してもらいました」。前述したように培養から手がけるのは県内企業には難しいが、培養して粉末化したものであれば、そこからオリジナルの商品開発に使用したいという企業は多かった。「最終商品として和歌山の企業が使ってくれそうなので、そこはすごく嬉しいですね」

研究者紹介

公設試名
和歌山県工業技術センター
肩書き
食品開発部 加工技術担当 主任研究員
研究者名
中村 允 氏
専門分野
食品加工、工業微生物
会社概要
効率や生産性だけを追い求めず、時間を費やしてでも、本当に人の体にいいものを。そんな開発方針のもと、大学や専門機関と連携しながら、培養技術の開発・製造・臨床試験まで妥協を許さず新たな機能性原料を生み出している。ユーグレナKishu株を自社工場で培養から粉末化まで一貫して行うことができる生産体制を確立する。
企業情報
株式会社ビオラボ
所在地
兵庫県神戸市中央区港島南町7-2-6
電話番号
078-304-7855
URL
https://ge-hd.co.jp/business/biotechnology/