研究者紹介研究者・シーズにスポットを当て取材、理解を深める記事。

6地元名産品から新機能発見
「スダチチン」のポテンシャルを追求。

スダチ果皮には特有のポリフェノールである「スダチチン」が含まれているが、これまで機能についてはほとんどわかっていなかった。10年にわたる産学官連携による研究で発見されたのは、スダチチンの持つ優れた抗肥満効果だった。

公設試名
徳島県立工業技術センター
肩書き
食品・応用生物担当 課長
研究者名
新居佳孝
研究テーマ
スダチ果皮由来ポリフェノール(スダチチン)
専門分野
食品機能学

研究のきっかけ

食品機能学を専門に研究してきた新居佳孝は、50年以上前に発見されていながら、長らく研究されてこなかったスダチチンに着目。

半世紀、日の目を見なかった
スダチチンの隠れた機能を引き出す。

さわやかな酸味と、すがすがしい香気が特徴のスダチ。全国で消費されるスダチの約98%は徳島県で生産されている(写真は冷凍スダチ)

スダチは徳島が誇る名産品であり、約98%がこの地域で生産されている。年間約4000tにのぼる生産量のうち、半分はジュースなどの飲料に加工され、その際に出る搾汁カスは年間約1000tにも及ぶという。そこにスダチ果皮由来ポリフェノール(スダチチン)があることは、1961年徳島大学の工学部の教授によって発見されていた。柑橘類ではスダチ果皮からしか検出されていないものだが、機能性は抗菌活性以外に知られていなかった。しかもその後50年以上、その機能は研究されてこなかった。しかし「もう一度、あらためてスダチチンを研究することが重要」だと考えた人がいた。それが徳島県立工業技術センターで食品機能学を専門とする新居佳孝だ。
実は徳島県は平成5年から14年連続して「糖尿病死亡率全国ワースト1位」が続き、以降も糖尿病死亡率の高い状態が続いている。さらにいえば20歳以上の肥満率(BMI25以上)が男女ともに全国平均を上まわっている。徳島県では糖尿病の克服に取り組むため、平成21年度から25年度までの5年間、文部科学省の「地域イノベーション戦略支援プログラム」として、糖尿病関連の研究を推進してきた。 このプログラムに参加した新居は、「スダチチンがこういった現状の改善につながるかもしれない」と考えた。

分析のための抽出法

「スダチチン」は、スダチの果皮にしか含まれない特有のポリフェノール(ポリメトキシフラボン)

新居は以前、共同研究をしていた徳島大学医学部栄養学科の先生のもとに赴き、スダチチンの分析を依頼。半年後、電話が鳴った。脂肪細胞を減少させる作用が見られたというのだ。さらに実験では高脂肪食を与えた肥満マウスに対して、体重1kgあたり5mgのスダチチンを毎日投与。12週間後の内臓脂肪量を比較したところ、スダチチンを投与されたマウスは、投与されなかったマウスの約半分だった。同時に血中の中性脂肪も上昇の抑制が認められた。さらに投与マウスの肝臓組織では肝脂肪の分解にかかわる遺伝子(ホルモン感受性リバーゼ)の発生が増加し、脂質を合成する遺伝子(アセチルCoAカルボキシラーゼ)の発現低下が認められている。その結果を得た時点で、スダチチンにはまだまだ秘めた性能があるという手応えを得た。
話を遡ると研究するなかでいくつかの段階があった。さいわい新居の前任者がスダチの皮からスダチチンを取り出す技術を有していた。これはマイクロ波照射による抽出で短時間、溶媒使用量を削減、さらに抽出残渣のリサイクルが可能という画期的なものであった。

保存性、汎用性が高い応用のきく新素材 「スダチチン」を使った健康食品事業を本格化。

池田薬草ではスダチ果皮エキス末を錠剤化した「Sudachin」を2020年2月に販売開始

つぎに通常ポリフェノールはアルコールで抽出してそれを濃縮するが、スダチチンでも同じことができないかと考えた。またこれをサプリメントなどの原料として利用するには、現状のやり方では精製に手間がかかるうえ、少ししか取れない。そのためコスト面から現実的ではなかった。さらに安全性の検討も必要だ。そんなとき偶然にも別件でセンターに相談へ来ていたのが、池田薬草株式会社の担当者。「スダチチンの濃縮エキスはつくれないか」とたずねたところ、可能だという。医薬品製造企業である池田薬草は医薬品・医薬部外品・機能性食品・健康食品の開発にあたり、スプレードライ噴霧乾燥機などを用いた液体の粉末化の技術を有する企業。スダチチン含量を高めた濃縮粉末(スダチ果皮エキス末)の開発を試みたところ、成功。「そこで製品化の話が生まれました」。ここから徳島大学と工業技術センター、そして池田薬草の三者による研究開発がはじまる。2015年にはスダチの果皮からエキスを抽出して乾燥させ、スダチチンを含む粉末製品「スダチン」が誕生。その過程でスダチチンの含量を増やす技術も開発。「現在では10%~95%まで、用途に合わせてスダチチンの含量を変えられるようになりました。95%のものは純度が高いので実験用の試薬として使えます」
スダチ果皮エキス末は食品サプリメントなど単体での商品化はもちろん、その他の有用な素材と組み合わせることでより訴求力を高めることが期待できる。また保存性、汎用性が高い素材なので、栄養補助食品や飲料などさまざまなバリエーションでの利用も考えられ、さらなる研究の進展とあわせて今後の展開が注目される。

産学官の連携による健康への取り組み
徳島県の産業にも寄与したい。

新居は1992年徳島県立工業技術センターに入所し、おもに穀類加工品の技術相談や依頼分析を担当。これまで「イズミエビ酵素分解物のACE阻害活性とSHRSRの血液に及ぼす影響」や「そば殻抽出物の血糖上昇抑制作用」など食品の機能性研究を20数年来続けてきた

スダチチンが発見されてから半世紀、ここへきて着実に研究成果や有効なエビデンスも揃いはじめている。これからの課題として新居は「機能性表示食品」への展開をあげた。「スダチ果皮エキス末を食品素材およびサプリメント原料として利用するには、機能性を全面に出すしかない」。この機能性表示食品の届出をするためには「ヒト臨床試験」は必須。メタボリックシンドロームの境界型(BMI23kg/m2以上)に分類される人を対象に、スダチ果皮エキス末の12週間の継続摂取が内臓脂肪量などに与える影響を調査。すると1日あたり5mgという非常に少ない量のスダチチン果皮カプセルの摂取で、内臓脂肪量を改善するという結果が得られた。2021年6月には論文を発表し、機能性表示食品申請に向けての準備は万端だ。「機能性表示食品の商品化や新たな機能性の研究による多様な用途開発を進めたい。またさらに、機能性の研究を進めて企業への橋渡しをするのが目標です」
今回は10年近く産学官による共同研究・開発ができた。これは極めて珍しいこと。その理由を新居は「“スダチの良さを広めたい”という目標がみな一致しており、それがうまくいった要因」だと語る。スダチは高級食材として料理、酒、飲料などに使われている万能果汁だが、コロナ禍で外食産業が打撃を受けるとともに消費量が減り、また生産者の高齢化によって生産量も減っているという。「スダチの隠れた性能を、もっともっと引き出してあげたい。こうした活動を続けることで、食材としてのスダチの違う側面をアピールし、生産および消費が伸びて、少しでも地元に貢献できたらくれたら嬉しいですね」

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